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刻音色 ~一の刻~

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――「僕」は目覚めた。

雪に閉ざされた山間の旧い館で。

頭に怪我を負い運ばれたという。

書物と絵画に囲まれ、椿を愛でる妙齢の女館主も、悲しげに微笑む四人のメイドも皆、全てを知っているようだ。

「僕」には分からない。

思い出すことができない、何もかも。

「あなたは刻のないこの館に、時間を持ち込んでしまった」蝋燭の灯りで語られる神隠し伝承に導かれるように、歯車は回り始めた。

深夜零時。

数十年、動くことのなかった大時計が、十三点鐘を告げる。

内なる井戸の底から這い出した黝い翳が徘徊する時、闇に漏れ聞こえるメイド達のすすり泣きは、恍惚…それとも――。

2007年03月29日

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